2026年度春学期 ミクロ経済学入門 「外部効果」補足資料

市場の失敗(3):外部効果と環境問題の解決策(ピグー税)

市場の失敗である「負の外部効果」がなぜ過剰生産を生むのか、税によっていかに解決できるかを解き明かします。

東海大学政治経済学部経済学科 担当教員:孫明超

公害発生市場シミュレーター:私的費用と社会的費用の乖離

需要関数 D = 100 - p、私的限界費用 MC = 10、限界外部費用 MEC = 10 の公害モデル

企業は環境汚染コスト(外部費用)を無視するため、自身の私的限界費用(MC=10)と需要が交わる q0=90 まで作りすぎてしまいます。

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企業 (生産量: 90)
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社会・環境

社会的総余剰のリアルタイム内訳(万円)

① 消費者余剰 (CS) --
② 生産者余剰 (PS) --
③ 政府の税収入 (Tax) --
④ 環境汚染の外部費用 (EC) - --
社会的総余剰 (① + ② + ③ - ④) --

私的限界費用と社会的限界費用のグラフ分析

グラフ凡例:
需要曲線 (D) : p = 100 - q (消費者の限界便益)
私的限界費用 (PMC) : MC = 10 (企業が認識する費用)
社会的限界費用 (SMC) : SMC = PMC + MEC = 20
課税後の私的限界費用 (PMC + t) : 企業の新たな供給曲線
公害による死荷重 (社会的な純損失の領域)
なぜ失敗する?

私的費用と社会的費用の乖離

化学工場が製品を作る際、川や空気を汚染してもそのクリーンアップ費用(外部費用)を自ら負担しない場合、企業の限界費用(PMC)は社会全体の本当の限界費用(SMC)よりも低くなります。

企業は自分の財布から出る費用(PMC)と需要が一致する場所で生産するため、社会的に望ましい量よりも多くの資源をこの製品に投入してしまいます。これが「過剰生産による市場の失敗」です。

死荷重の本質

最適量を超えて作るとなぜ損か

社会的最適点である q1 = 80 を超えて、自由市場の q0 = 90 まで生産を続けるとどうなるでしょうか?

この80から90の区間では、製品を消費して得られる便益(需要曲線の高さ)よりも、公害を含めた本当の生産費用(SMCの高さ)の方が高くなってしまいます。つまり、「作るコストの方が、得られる価値より重い」状態であり、この差額の蓄積が赤い三角形の「死荷重(無駄)」となります。

ピグー税の魔術

「内部化」によって市場を正す

アーサー・ピグーが提唱した解決策は、環境を汚した分だけ政府が税金(ピグー税)を課すことです。 公害の限界外部費用とピッタリ等しい t = 10 の税を課すと、企業の税込み限界費用がSMCと完全に一致します。

政府が直接生産量を命令しなくても、企業は自分の利益を最大化しようと自発的に生産量を80に減らします。このように、外部コストを価格メカニズムに組み込むことを「外部性の内部化」と呼びます。

まとめ:重要公式・数式チェック

1. 限界費用の基本構造

負の外部効果がある場合、社会的な本当のコストは企業自身のコストに公害の迷惑料を加算したものになります。
社会的限界費用 (SMC) = 私的限界費用 (PMC) + 限界外部費用 (MEC)
本演習問題の数値では、SMC = 10 + 10 = 20 となり、これが社会全体の供給曲線の基準となります。

2. 社会的総余剰と死荷重の計算式

自由市場(規制なし)での社会的総余剰は、見かけの余剰(消費者余剰+生産者余剰)から、社会が被った総公害費用を差し引いて計算します。
社会的総余剰 = CS + PS - 総外部費用(EC)
規制なし (q=90): 4050 + 0 - 900 = 3150死荷重 = 50 が発生)
ピグー税最適時 (q=80): 3200 + 0 + 800 - 800 = 3200 (総余剰が最大化!)