2026年度春学期 ミクロ経済学入門 「供給の理論」補足資料

企業はいつ生産をやめるのか?— 費用曲線から読み解く操業判断

数学が苦手でも大丈夫。スライダーを動かして、「傾き」が「費用」に変わる瞬間を体験しましょう。

東海大学政治経済学部経済学科 担当教員:孫明超

生産量 (q): 3.0
← STEP 1〜3 で使用

STEP 1: 総費用 (TC) から「動き」を読み取る

上図の総費用曲線に対して、2つの視覚的な「傾き」を考えます。

📐 計算の過程(q = 3.0 のとき)

① 総費用 TC(q)
TC(q) = 0.4q³ − 3q² + 12q + 15
= 0.4× − 3× + 12× + 15
= + + 15
=
② 限界費用 MC(q)(接線の傾き)
MC = dTC/dq = 1.2q² − 6q + 12
= 1.2× − 6× + 12
= + 12
=
③ 平均費用 AC(q)(原点からの傾き)
AC(q) = TC(q) ÷ q
= ÷ 3.0
=

1. 接線の傾き (Marginal Cost)

オレンジ色の接線に注目してください。この傾斜は「あと1単位追加で生産した時、いくらコストが増えるか」を表します。

2. 原点からの線の傾き (Average Cost)

青色の点線に注目してください。原点と結んだこの線の傾斜は「製品1個あたりの平均コスト」を表します。

STEP 2: 単位あたり費用の可視化 (MC & AC)

上の図で読み取った「傾きの値」をグラフにプロットすると、私たちがよく見る費用曲線が現れます。

📊 現在の値の比較(q = 3.0 のとき)

限界費用 MC
MC = 1.2q² − 6q + 12
= 1.2× − 6× + 12
=
平均費用 AC
AC = TC ÷ q
= ÷ 3.0
=
MC と AC の比較
MC =  AC =
💡 AC 最小点に近づくには?
AC が最小になるのは MC = AC のとき。
現在 q = 3.0

💡 重要な発見 (ここがテストに出る!)

  • MC = AC の地点: MCがACを突き抜ける時、ACは必ず最小値になります。
  • なぜ?: 「追加の1個(MC)」が「平均(AC)」より安ければ平均は下がり、高ければ上がります。テストの点数と同じ原理です。
  • 損益分岐点: ACの最小点は、企業が赤字にならないギリギリの価格を示します。

STEP 3: 費用の分解 — 固定費用・可変費用・平均可変費用 (FC, VC, AVC)

総費用は 固定費用 (FC)可変費用 (VC) に分解できます。VC曲線の「原点からの傾き」が 平均可変費用 (AVC) です。

📐 費用の分解(q = 3.0 のとき)

① 総費用 TC(q)
TC = 0.4q³ − 3q² + 12q + 15
=
② 固定費用 FC(生産量に無関係)
FC = 15(常に一定)
③ 可変費用 VC = TC − FC
VC = 0.4q³ − 3q² + 12q
= − 15
=
④ 平均可変費用 AVC = VC ÷ q
AVC = 0.4q² − 3q + 12
= ÷ 3.0
=
⑤ 平均固定費用 AFC = FC ÷ q
AFC = 15 ÷ 3.0
=
AC = AVC + AFC = + =

固定費用 (FC)

家賃・設備投資など、生産量に関わらず発生するコスト。グラフでは TC と VC の縦の差(常に15)として現れます。

可変費用 (VC)

原材料・労働賃金など、生産量に比例して変化するコスト。VC = TC − FC。原点を通る曲線になります。

平均可変費用 (AVC)

VC曲線の「原点からの傾き」= AVC。MC = AVC の地点でAVCは最小となります(操業停止点の基準)。

STEP 4: 損益分岐点と操業停止点

市場価格 P が与えられたとき、企業は P = MC となる生産量 q* を選びます。そのとき利益が出るか・損失でも操業するか・廃業するかは、P と AC・AVC の最小値の比較で決まります。

市場価格 (P): 12.0 ← STEP 4 で使用

💹 意思決定の計算(P = 12.0 のとき)

最適生産量 q*(P = MC)
P = MC(q*)
→ q* =
収入と費用
TR = P × q* =
TC =
VC =
単位あたり費用との比較
AC(q*) =
AVC(q*) =
損益分岐点 AC_min ≈ 9.93
操業停止点 AVC_min = 6.38
利益の計算
利益 = TR − TC
= (P − AC) × q*
= () ×
=

① P ≥ AC最小値(≈9.93)

超過利潤または損益分岐
収入が全費用をカバー。利益 ≥ 0。企業は操業を続けます。

損益分岐点 = AC曲線の最小点(★)

② 6.38 ≤ P < 9.93

損失あり・操業継続
変動費はカバーできるので、操業した方が廃業より損失が小さい(固定費の回収)。

操業停止点 = AVC曲線の最小点(▼)

③ P < AVC最小値(6.38)

操業停止
変動費すら回収できない。生産しても損失が拡大するため、q = 0 が最適。

損失 = FC = 15(操業停止時の損失)

💡 供給曲線との関係

  • 企業の供給曲線は、AVC最小点以上の MC 曲線の部分そのものです(P = MC の関係から)。
  • スライダーで確認: P を 6.38 前後に動かすと、操業停止の瞬間がわかります。P を 9.93 に合わせると損益分岐点で利益がほぼゼロになることを確認してください。